新規事業の立ち上げや、既存商品の売上拡大を狙う際、「何から手を付ければいいのか分からない」と悩むマーケティング担当者は少なくありません。
戦略なき施策は、地図を持たずに航海に出るようなものです。
そんな時、現状を整理し、進むべき方向を明確にしてくれる羅針盤となるのが「3C分析(サンシー分析)」です。
3C分析は、マーケティング戦略における最も基本的かつ王道のフレームワークですが、正しく使いこなせているケースは意外と多くありません。
単なる「情報の穴埋め」で終わらせず、競合に勝つための「成功要因」を見つけ出すことこそが本質です。
本記事では、3C分析の正しい定義から、目的であるKFS(重要成功要因)の導き出し方、さらに分析精度を高める周辺フレームワークとの連携までをわかりやすく解説します。
目次
3C分析とは?
3C分析は、マーケティング環境を「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの視点から分析し、事業の成功要因(KFS)を導き出すためのフレームワークです。環境分析フレームワークとして、ビジネス戦略やマーケティング戦略を策定する際に使われます。
元マッキンゼー日本支社長の大前研一氏が提唱した手法であり、外部環境(市場・競合)と内部環境(自社)を客観的事実に基づいて整理することで、精度の高いマーケティング戦略を立案するために不可欠なプロセスとされています。
外部環境と内部環境を抜け漏れなく整理し、事業戦略の方向性を定めるのに役立ちます。
まず、外部環境である顧客ニーズと競合の状況を把握し、その情報に基づいて内部環境である自社の強み・弱みを客観的に評価します。
この分析により、「顧客ニーズがあり、競合には真似できない、自社独自の強みが活きるポジション」、つまり成功の鍵(KFS: Key Factor for Success)を見つけ出すことが、この分析の最大の目的です。
3つの構成要素(Customer・Competitor・Company)

3C分析では、以下の3つの要素を抜け漏れなくリサーチします。
- Customer(市場・顧客): 市場の規模や成長性、顧客のニーズ、購買行動などを分析します。「誰が」「なぜ」その商品を求めているのかを理解するフェーズです。
- Competitor(競合): 競合他社のシェア、特徴、戦略、強み・弱みを分析します。直接的なライバルだけでなく、代替品を提供する間接的な競合も視野に入れます。
- Company(自社): 自社のブランド力、資金力、技術力、人材などのリソースを分析します。競合と比較した際の「強み」と「弱み」を明確にします。
これらを分析することで、「顧客が求めていて、競合が提供できていない、自社だけが提供できる価値」を見つけ出すことが最大の目的です。
3C分析の真の目的「KFS」の発見

3C分析を行う際、多くの人が陥りがちな罠が「ただ情報を枠に埋めて満足してしまうこと」です。しかし、現状整理はスタート地点に過ぎません。
3C分析を行う真の目的は、KFS(Key Factor for Success:重要成功要因)を発見することにあります。
- 顧客が求めており(Customer)
- 競合他社が提供できていない(Competitor)
- 自社だけが提供できる価値(Company)
この3つが重なる領域、いわゆる「勝ち筋」を見つけ出すことこそがゴールです。「どこで戦えば勝てるのか」という事業の急所を特定して初めて、3C分析は意味を持ちます。
【実践編】3C分析のやり方・正しい手順
ここからは3C分析のやり方と手順を解説します。3C分析で最も重要なのは、実は「分析する順序」です。
多くの企業が、手に入りやすい「自社(Company)」の情報から整理しがちですが、これは失敗のもとです。市場や競合を見ずに自社の強みを定義することは、独りよがりな分析になりかねないからです。

熟練したプロのマーケターは、必ず「Customer(市場・顧客)→ Competitor(競合)→ Company(自社)」の順で分析を進めます。外部環境を正確に把握してから、内部環境を照らし合わせるのがポイントです。
手順1:Customer(市場・顧客)の分析
最初のステップでは「Customer(顧客・市場)」から始めます。なぜなら、どれほど素晴らしい技術(自社)があっても、競合に勝てる戦略(競合)があっても、そこに「市場(顧客)」が存在しなければビジネスは成立しないからです。
このフェーズでは、「マクロ(市場全体)」と「ミクロ(特定の顧客)」の2つの視点で分析を行います。
1. マクロ視点:市場の「流れ」を読む
まずは、戦おうとしている市場が「これから伸びるのか、縮小するのか」を把握します。
- 市場規模: そもそもビジネスとして成立するパイ(市場規模)はあるか?
- 成長性: 今後、その市場は拡大傾向にあるか?
- 社会的背景: 法改正や技術革新など、市場に影響を与える外部要因はあるか?(PEST分析)
例えば、「これからアナログなチラシ集客代行を始める」のと、「AIを活用したWeb集客代行を始める」のとでは、市場の追い風(成長性)が全く異なります。
2. ミクロ視点:顧客の「属性」ではなく「本音」を読む
ターゲット顧客が抱える具体的な悩みやニーズを深堀りします。
多くの担当者が陥りがちなのが、顧客分析を「30代男性、会社員、年収500万円」といった「デモグラフィック(属性)」の定義だけで終わらせてしまうことです。
マーケティングにおいて重要なのは、単なる属性分析ではなく「なぜその商品を欲しているのか?」というインサイト(本音・真相心理)です。
以下のような問いで、顧客の解像度を高めます。
- 解決したい「不満(課題)」は何か? (不安、不満、不便、不足など)
- 購入を阻害している「壁」は何か? (価格が高い、使い方が難しそう、効果が信じられない)
- いつ、どんな状況でそのサービスを必要とするか?
【マーケターの視点】 「ダイエットサプリ」を例にします。
- × 浅い分析: ターゲットは「痩せたい20代~40代の女性」
- 〇 深い分析: ターゲットは「運動や食事制限が辛くて続かず(過去の失敗体験)、それでも夏までに”ラクして”痩せたい(願望)、あわよくば美容効果も欲しい(潜在ニーズ)と思っている女性」
ここまで深掘りできて初めて、次に分析する「競合」との差別化ポイントが見えてきます。
情報収集のコツ
机上の空論にならないよう、以下の情報源を活用して「生の声」を集めましょう。
- 官公庁の統計データ、業界レポート(マクロ分析用)
- Q&Aサイト(Yahoo!知恵袋など):人には言えない深い悩みが書き込まれています。
- SNS・口コミ:競合商品に対するリアルな不満の宝庫です。
- 検索キーワード:Googleで検索されるキーワードは、ユーザーの悩みそのものです。
手順2:Competitor(競合)の分析
顧客(市場)のニーズが見えてきたら、次は「競合」の分析です。ここで多くのマーケターが陥る致命的なミスがあります。それは、「同業他社だけを競合と見なしてしまうこと」です。
20年前であれば、業界地図に載っている会社だけを見ていればよかったかもしれません。しかし、今は業界の垣根が消滅し、あらゆるサービスが競合になり得る時代です。
プロの競合分析は、以下の2つの視点でライバルを洗い出します。
1. 「直接競合」と「間接競合」で捉える
顧客が抱える課題を解決する方法は、一つではありません。
- 直接競合(Direct Competitors): 自社と似た商品・サービスを提供している相手。 (例:マクドナルド VS バーガーキング)
- 間接競合(Indirect Competitors): 商品・サービスは異なるが、「顧客の同じニーズ」を満たす相手。 (例:マクドナルド VS コンビニのホットスナック VS UberEats)
【プロの視点:英会話スクールの事例】 あなたが「英会話スクール」を経営しているとします。 ライバルは近隣の「駅前留学」だけでしょうか?
顧客のニーズが「英語を話せるようになりたい」であれば、
- 格安オンライン英会話
- YouTubeの無料学習チャンネル
- 英語学習アプリ(Duolingoなど)
- AI翻訳ツール(DeepLやChatGPT)
これら全てが強力な「間接競合」です。「AIがあれば勉強しなくていい」と考える顧客にとって、AI翻訳ツールはあなたのスクールの最大の脅威になり得ます。
2. 「奪い合うリソース」で考える
顧客の財布(可処分所得)と時間(可処分時間)は有限です。あなたのサービスを利用するために、顧客は「何を犠牲にするのか」を考えてください。
例えば、テーマパークの競合は、他の遊園地だけではありません。「自宅で見るNetflix」や「スマホゲーム」、あるいは「休日の昼寝」かもしれません。これらはすべて、顧客の「休日の余暇時間」を奪い合うライバルです。
ここまで視野を広げて初めて、「誰に勝たなければならないのか」が明確になります。
競合分析のチェックポイント
リストアップした競合に対して、以下の要素を分析します。
- 結果(シェア・売上): 現状、どのくらい勝っているのか?
- リソース(ヒト・モノ・カネ): なぜ彼らは強いのか?
- 弱み・不満点: 顧客が彼らに対して抱いている不満は何か?
特に重要なのは3つ目の「不満点」です。競合が満たせていないニーズ(不満)こそが、次のステップで導き出すあなたの「勝ち筋(KFS)」の源泉になります。
手順3:Company(自社)の分析
市場と競合を把握したら、最後に自社の分析を行います。 「自分のことは自分が一番よくわかっている」と思いがちですが、実はここが最も判断を誤りやすいフェーズです。
なぜなら、自社分析にはどうしても「希望的観測」や「愛着」が混ざってしまうからです。
- 「我が社の技術は素晴らしいはずだ」
- 「社員のやる気なら負けない」
こうした主観的な思い込みを捨て、あくまでドライに、客観的な「リソース(経営資源)」を棚卸しする必要があります。
1. 「事実(Fact)」と「解釈(Opinion)」を分ける
自社の強みをリストアップする際、それが「客観的な事実」なのか、単なる「社内の解釈」なのかを区別してください。
- × 解釈(弱い根拠): 「アットホームで親切な対応ができる」 → これは顧客が決めることであり、自社が主張することではありません。また、競合も同じことを言っている可能性が高いです。
- 〇 事実(強い根拠): 「業界唯一の〇〇資格保持者が3名在籍している」 「過去10年間の顧客データが5万件ある」 → これは誰が見ても変わらない「資産」であり、競合が容易に真似できない武器になります。
2. VRIO分析で「模倣困難性」をチェックする
見つけた強みが、本当にビジネスで通用するかどうかを判断するために、VRIO(ブリオ)分析という視点を使います。特に重要なのは「I:Imitability(模倣困難性)」です。
- その強みは、競合がお金と時間をかければすぐに真似できるものか?
例えば、「最新の設備を導入した」ことは強みのように見えますが、資金力のある大手競合が同じ機械を買えば、その優位性は一瞬で消えます。一方で、「創業から100年続くブランドへの信頼」や「熟練職人の暗黙知」は、お金を出しても明日すぐには手に入りません。
「競合が真似したくてもできない(または真似するのに凄まじいコストがかかる)」要素こそが、真の強み(コア・コンピタンス)です。
3. 強みは「相対的」なものである
最後に忘れてはならないのが、強みとは「相対的なもの」だということです。
どんなに素晴らしい技術を持っていても、競合他社がそれ以上の技術を持っていれば、それは「弱み」になります。逆に、自社のリソースが乏しくても、競合がそれ以上に弱ければ、それは立派な「強み」になり得ます。
- 顧客が求めていて(Customer)
- 競合が提供できず(Competitor)
- 自社なら提供できる(Company)
この3つが重なるポイントを探すために、まずは自社の手札(リソース)を包み隠さずテーブルの上に広げてください。
なぜ、多くの3C分析は失敗するのか?
多くの現場で目にする失敗ケースには、共通する「罠」があります。それは、3つのCをそれぞれ独立して分析してしまうことです。
- 市場データを集める
- 競合リストを作る
- 自社の特徴を書き出す
これらを別々に箇条書きにしただけでは、現状確認(ファクトの羅列)に過ぎません。マーケティングの本質は「相対性」にあります。
- 「自社の技術力が高い」かどうかは、競合と比較して初めて決まります。
- 「競合が弱い」部分は、顧客がそこを重視していなければチャンスにはなりません。
「3つの要素を行き来させながら、関係性を紐解くこと」こそが、プロが行う3C分析の真髄です。
プロが実践する「深掘り」の視点
では、具体的にどのように分析を深めていけばよいのか。表面的な情報収集で終わらせないための視点を解説します。
1. Customer(市場・顧客):属性ではなく「背景」を読む
初心者は「30代男性、会社員」といったデモグラフィック情報(属性)を集めがちです。しかし、戦略立案に必要なのは顧客の「背景(コンテキスト)」と「インサイト(本音)」です。
- × 浅い分析: 市場は拡大傾向にある。ターゲットは効率化を求めている。
- 〇 プロの視点: 顧客はツールの導入自体は望んでいない。彼らが真に解消したいのは「慢性的な人手不足による現場の疲弊」であり、求めているのは機能ではなく「誰でも使える簡単さ」である。
顧客が抱える「痛み(Pain)」がどこにあるのか。市場のマクロな数字だけでなく、ミクロな心理まで解像度を高める必要があります。
2. Competitor(競合):真のライバルは「同業他社」ではないかもしれない
ここが最大の落とし穴です。多くの企業が、業界ランキングに載っている「同業他社」だけを競合と見なします。しかし、顧客にとっての競合とは「顧客の財布(または時間)を奪い合う相手」すべてです。
例えば、あなたが「高級マッサージ店」を経営しているとします。
- 直接競合: 近隣のマッサージ店、整体院
- 間接競合: 高級スパ、日帰り温泉、あるいは「自宅で使える高級マッサージ機」
顧客があなたのサービスを利用する代わりに、「何にお金と時間を使おうとしているか?」という視点で競合を再定義してください。
3. Company(自社):事実(Fact)と解釈(Opinion)を分ける
自社分析では「希望的観測」が混ざりがちです。「社員のモチベーションが高い」「柔軟な対応力」といった定性的な強みは、競合と比較した際に根拠に欠ける場合があります。
VRIO分析などのフレームワークも活用しながら、以下の問いに答えてください。
- それは模倣困難か?(競合がお金を出せば真似できることではないか?)
- それは顧客にとって価値があるか?(独りよがりのこだわりではないか?)
客観的な資産(リソース)をシビアに棚卸しすることが重要です。
3C分析から「KFS(重要成功要因)」を導く手順
情報が出揃ったら、それを戦略(アクション)に変換します。ここで導き出すのがKFS(Key Success Factor)です。
STEP 1:市場の変化と競合のギャップを見つける(Customer × Competitor)
まず、「顧客が求めているのに、競合が十分に対応できていない領域」を探します。これを「市場の空白地帯」と呼びます。
- 顧客の悩み: 「もっと手軽に、短時間で利用したい」
- 競合の現状: 「高機能だが、手続きが煩雑で時間がかかる」
このギャップこそが、ビジネスチャンスです。 逆に、顧客が求めていて、競合も既に完璧に対応している領域は「レッドオーシャン」です。そこに後発で飛び込むのは、消耗戦を意味します。
【例】顧客は「短納期」を求めているが、大手の競合は「品質は高いが納期がかかる」場合、ここにギャップ(機会)があります。
STEP 2:自社の強みをフィットさせる(Company × 空白地帯)
見つけた空白地帯に対し、自社のリソースで勝負できるかを判断します。いくらチャンスがあっても、自社にそれを実行する能力(強み)がなければ絵に描いた餅に終わるからです。
- 空白地帯: 「短時間・手軽さ」へのニーズ
- 自社の強み: 「無駄を削ぎ落とす独自のオペレーション技術」「Web完結のシステム基盤」
この2つがガッチリと噛み合ったとき、初めて「勝ち筋(KFS)」が見えます。
【判断の基準】
- Can We?(できるか?):技術やリソース的に可能か。
- Win?(勝てるか?):競合が追随できないレベルで提供できるか。
【例】
自社には「小回りの利く生産体制(Company)」がある。
↓
大手が対応できない「超短納期・小ロット対応」に特化する。
STEP 3:戦略を「一言」で言語化する
分析の仕上げとして、導き出した勝ち筋をシンプルな文章に落とし込みます。チーム全員が迷わず同じ方向を向けるよう、曖昧さを排除してください。
【戦略ステートメントのテンプレート】
「我々は、(ターゲット顧客) に対して、 (競合) が提供できていない (未充足ニーズ) を、 自社の (独自の強み) を活かして提供することで、 (No.1 / シェア獲得) を目指す。」
ここまで言語化できて初めて、3C分析は完了します。 かっこいいスライドを作ることが目的ではありません。「誰に、どこで、どうやって勝つか」を定義することこそが、このフレームワークのゴールなのです。
3C分析の具体例【成功企業の勝ち筋を解剖】
理論だけではイメージが湧きにくいかもしれません。実際に日本市場で大成功を収めた2つの企業を例に、彼らがどのような3C分析を行い、独自のKFS(勝ち筋)を見つけたのかを解説します。
事例1:スターバックス(付加価値での差別化)
今でこそ当たり前の存在ですが、1996年の日本上陸当時、コーヒーチェーンといえば「ドトール」に代表される低価格路線が主流でした。スタバはどう分析し、市場を切り開いたのでしょうか。
- Customer(顧客・市場):
- 当時の喫茶店は「喫煙可・狭い・サラリーマンの休憩所」というイメージ。
- しかし、特に女性や若年層には「タバコ臭くない、おしゃれな空間でゆっくりしたい」という潜在ニーズ(不満)があった。
- Competitor(競合):
- ドトール等の既存チェーン:「安い・早い・回転率重視」。
- 昔ながらの喫茶店:「高い・入りにくい・マスターとの会話が必要」。
- 空白地帯: 「家でも職場でもない、くつろげる第3の場所(サードプレイス)」を提供しているチェーンが存在しなかった。
- Company(自社):
- 高品質なアラビカ種コーヒー豆。
- マニュアル化された接客ではなく、フレンドリーな「ホスピタリティ」。
- 洗練された店舗デザインと全面禁煙のポリシー。
▼ 導き出されたKFS(勝ち筋)
「単なるコーヒー販売(機能)ではなく、サードプレイス(体験)を売る」
彼らは「コーヒーの安さ」という既存の競争軸に乗ることを避け、「空間の質」という新しい土俵を作ることで、高単価でも行列ができるブランドを確立しました。
事例2:QBハウス(引き算での差別化)
スターバックスとは真逆のアプローチで、理美容業界に革命を起こしたのが「10分カット」のQBハウスです。
- Customer(顧客・市場):
- 当時の理髪店は「1時間かかる」「4,000円前後」が常識。
- しかし、忙しいビジネスマンの中には「洗髪やマッサージ、店員との世間話は不要。とにかく髪だけ切って早く帰りたい」というニーズがあった。
- Competitor(競合):
- 一般の理髪店・美容室:過剰なサービス(洗髪・顔剃り・マッサージ)がセットになっており、時間もコストもかかる。
- Company(自社):
- 水回りの設備を廃止し、エアウォッシャー(掃除機)を導入。
- チケット販売機による会計の自動化。
- 駅ナカなどの狭いスペースでも出店できる小回りの良さ。
▼ 導き出されたKFS(勝ち筋)
「サービスを極限まで削ぎ落とし、”時間”という価値を売る」
QBハウスは、競合が当たり前に提供していたサービスを「捨てる」ことで、圧倒的な低価格と短時間提供を実現しました。「やらないこと」を決めるのも、立派な3C分析の成果です。
2つの事例の共通点
この2社に共通しているのは、「競合がいない土俵を見つけた」という点です。
- スタバは、回転率重視の競合に対し、「回転率を無視した居心地」で勝負した。
- QBハウスは、サービス満点の競合に対し、「サービスなしの時短」で勝負した。
3C分析のゴールは、競合より少しだけ良い商品を出すことではありません。「競合とは違うルールで戦える場所」を見つけ出すことなのです。
3C分析と併用すべきフレームワーク
3C分析は強力なツールですが、万能ではありません。より精度の高いマーケティング戦略を立案するためには、3C分析の前後のプロセスで、視点の異なるフレームワークを組み合わせることが重要です。
これらを併用することで、マクロ環境(世の中の流れ)からミクロ環境(自社の戦い方)までを一気通貫で分析でき、戦略の「抜け漏れ」を防ぐことができます。
PEST分析(マクロ環境の把握)
3C分析が「市場や競合」という特定のプレイヤーに焦点を当てるのに対し、PEST分析は「自社ではコントロールできない世の中の大きな流れ(マクロ環境)」を分析します。
- Politics(政治・法律)
- Economy(経済)
- Society(社会・ライフスタイル)
- Technology(技術)
3C分析に取り組む前にPEST分析を行うことで、「そもそも市場自体が法規制で縮小しないか?」「技術革新で代替品が現れるリスクはないか?」といった前提条件を整理できます。
ファイブフォース分析(業界の収益性把握)
マイケル・ポーターが提唱したファイブフォース分析は、3C分析の「Competitor(競合)」をより深く掘り下げるために有効です。単なるライバル企業だけでなく、業界全体の「収益性(儲かりやすさ)」を5つの脅威から判断します。
- 競合他社との敵対関係
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
- 買い手(顧客)の交渉力
- 売り手(サプライヤー)の交渉力
業界構造そのものが厳しい場合、3C分析でどれだけ良い戦略を立てても利益が出ない可能性があります。戦うフィールドが適切かどうかを見極めるために使用します。
SWOT分析(戦略オプションの導出)
SWOT分析は、3C分析などで集めた「事実」を、自社にとっての「意味(プラス要因かマイナス要因か)」に変換するフレームワークです。
- Strength(強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
3C分析を行った「後」にSWOT分析(特にクロスSWOT分析)を行うのが定石です。3Cで明らかになった「成功要因(KFS)」を、具体的な「戦略アクション」へと落とし込むための架け橋となります。
まとめ
戦略(Strategy)の語源には「捨てる」という意味が含まれていると言われます。
3C分析を徹底することで「勝てる場所」と同時に「戦ってはいけない場所」も見えてきます。
- 最大手の競合が圧倒的なシェアを持つ領域で、真っ向勝負をしていないか?
- 市場規模は大きいが、自社の強みが全く活きない領域に参入しようとしていないか?
リソースが限られている企業こそ、3C分析を用いて「戦わない領域」を明確にし、自社がNo.1になれるニッチな勝ち筋を見つけ出す必要があります。
机上の空論で終わらせず、ぜひ「勝つための意思決定」に3C分析を活用してください。
